第1回 田村茜先生『モブ子の恋』(徳間書店)
◇目次
・作品概要
・『モブ子の恋』ここが好き!①
・『モブ子の恋』ここが好き!②
・『モブ子の恋』ここが好き!③
・まとめ
◇作品概要
第1回に取り上げる作品は田村茜先生『モブ子の恋』(徳間書店)です。月刊コミックゼノンにて連載中の恋愛漫画であり、単行本は2018年7月4日現在第2巻まで発売されています。
<あらすじ>
「地味で大人しく目立つのが苦手」「物語で例えるならみんなの中心にいる主人公よりもすみっこの脇役でいる方が落ち着いてしまう」(第1巻9ページ)、そんな控えめで消極的な大学生の女の子 田中信子(たなかのぶこ)の恋のお話。
彼女は同じアルバイト先で働く男の子、入江君に芽生えた恋心に最初は戸惑いつつも、勇気を振り絞りながらその想いに向き合い、彼との距離を縮めていく。
大勢にとっての"脇役"から、一人にとっての"特別"になるために、そっと歩き出していく彼女の姿は、きっと「誰かを好きになること」の素晴らしさを教えてくれる。
◇『モブ子の恋』ここが好き!①
ドラマチックな展開に頼らないこそ、「ドキドキ」が浮き彫りになる
『モブ子の恋』で描かれる恋は、決してドラマに溢れた「特別」なものではありません。スーパーでアルバイトをしている大学生の田中さんは、「恋愛漫画のヒロイン」という看板を背負うにはあまりに控えめな性格ですし、そのお相手の入江君も物静かで落ち着いている普通の(と言っては乱暴かもしませんが)男の子です。恋愛漫画にありがちな三角関係も発生せず、二人の関係性はあくまで彼らの「日常の中で」淡々と描かれていきます。
一見恋愛漫画としては退屈に思える一方、ドラマチックな展開や設定に頼らず二人の「意思・迷い・不安・期待」を軸に物語を進めていくことで、人を好きになる気持ちがしっかりと誠実に描かれていきます。そんなごまかしのない作品だからこそ、二人の恋にドキドキしてしまいますし、読んでいて静かに胸が高鳴るような感覚になるのです。
◇『モブ子の恋』ここが好き!②
「モブ子」は誰もの心の中にいる
本来、「漫画の主人公」というのは自分のことをあまり客観視しないことが多いような気がします。自分にできるかどうかなんて考えず困難に挑んでいく、周りの評価に左右されずに自分の道を突き進んでいく、そんな気質が「主人公」の持ち味の一つであり、だからこそ読者も惹かれていくのだと思います。
しかし、本作の主人公である田中さん、通称"モブ子"は人見知りでちょっと臆病、自分の言動に対して相手がどう思うかを考えてしまう、漫画的な主人公性とは程遠い性格です。ただ、それは同時に「モブ子は読者と地続きの場所にいる」ということでもあると思います。誰もが憧れるような魅力やカリスマ性を持っているからこその主人公であるとされる一方、この漫画ではあえて読み手と距離感の近いキャラクターを主人公に置くことで、読者が他人事とは思えずにのめり込んでしまうような仕組みになっているのではないでしょうか。
◇『モブ子の恋』ここが好き!③
大勢にとっての「主役・脇役」ではなく、誰か一人にとっての「特別」でありたいと思う気持ち
自らを物語の中の脇役のように捉えながら生きてきた田中さん。ただ、そのような彼女も入江君への思いを募らせていく中で、「この人にとっての"特別"になりたい」という自分の気持ちに気づき、勇気を振り絞りながら入江君との距離を縮めていきます。これこそ、恋の素晴らしさの爆発、誰かを好きになることの尊さだと私は思います。今まで自分を縛りつけていた価値観から抜け出し、新しい自分に生まれ変わっていく、そんな恋の魔法を田中さんの姿から感じることができます。
◇まとめ
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
『モブ子の恋』、何度も読み返してしまうような本当におすすめの漫画です。
今月には第3巻も発売されるよう。ぜひ書店に買いに行きましょう!