拝啓、作者さま!

好きなアニメ作品、漫画作品について語るブログです。

第2回 萩埜まこと先生『熱帯魚は雪に焦がれる』(KADOKAWA)

目次

・作品概要

・『熱帯魚は雪に焦がれる』ここが好き!①

・『熱帯魚は雪に焦がれる』ここが好き!②

・『熱帯魚は雪に焦がれる』ここが好き!③

・まとめ

 

作品概要

第2回に取り上げる作品は萩埜(はぎの)まこと先生『熱帯魚は雪に焦がれる』(KADOKAWA)です。月刊コミック誌電撃マオウにて連載中の漫画作品であり、単行本は2018年8月3日現在第2巻まで発売されています。

〈あらすじ〉

父親の海外転勤にともなって15年間暮らした東京を離れ、海辺の田舎町にある親戚の家に預けられることになった天野小夏(下写真右側)。転校先の高校で周囲にうまく馴染むことができずに寂しさを感じていた小夏が出会ったのは、校内で一人"水族館部"に所属する優等生の帆波小雪(下写真左側)。成績優秀でスポーツ万能、周囲からは高嶺の花として憧れられていた小雪だったが、そんな彼女もまた、「優等生」としてのイメージに息苦しさを覚え、一人孤独を抱えていた。水族館部の活動をきっかけに出会った二人は、やがてそれぞれの孤独をゆっくりと溶かし合っていくように、お互いの存在に惹かれていく。

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『熱帯魚は雪に焦がれる』ここが好き!①

人と人とを切実に強く結びつけるのは、「弱さ」や「孤独」といった一人では抱えきれない気持ち

この作品に登場する帆波小雪は高校で"水族館部"に所属し、日々校内で様々な魚たちの世話をしながら、月に一度たくさんの水槽を教室に並べ"水族館"を開く活動をしています。多くの生き物をたった一人で世話しながら、勉強もスポーツもこなせてしまう優等生の彼女は校内でも高嶺の花として囁かれる存在ですが、一方でそのイメージに縛られ、周りに頼ることを躊躇してしまう、ついつい無理してしまう真面目な女の子でもあります。

そんな小雪に、「我慢しなくていいのに...」(第1巻 第1槽「天野小夏は悲しまない。」29ページ)と声をかけるのが、小雪の高校に転校してきた一つ年下の後輩・天野小夏です。小夏自身も転校してきたばかりでクラスに馴染むことができず、その寂しさを「わたしはひとりで大丈夫」(第1巻 第1槽「天野小夏は悲しまない。」20ページ)と無理に紛らわしていたのですが、小夏はそんな風に強がる自分の姿と、優等生としてのイメージに無理をする小雪の姿を思わず重ね、まるで他人事とは思えず心の声をぽろっとこぼすようかのように小雪に言葉をかけます。

今まで周囲からは憧れの存在として頼られることばかりだった小雪に対して、その内側にある寂しさに気づき、自分を重ね、寄り添うように手を差し伸べた小夏。この作品を読むと、人の心を優しく溶かすのは「羨望」や「憧れ」ではなく、たった一つの「理解」なのかもしれないと感じます。「尊敬」や「憧れ」といった感情は人を惹きつける大切な要素ですが、人と人とを切実により強く結びつけるのは、「弱さ」や「孤独」といった一人ではどうしても処理できない感情なのかもしれません。

 

『熱帯魚は雪に焦がれる』ここが好き!②

ほかの作品では見られない"水族館部"の活動

単行本第1巻のカバーを外した表紙にはおまけ漫画が描かれているのですが、そこでは、作品における水族館部という設定は愛媛県立長浜高等学校に実際に存在する水族館部がモデルになっているということが描かれています。海や水族館に思い入れがあり、偶然にも愛媛県出身であった萩埜まこと先生が、地元を盛り上げようとする長浜高校水族館部の活動に感動し、漫画のテーマに選んだとのことです。

作品内で描かれる、月に一度の水族館展示やハマチショー、リクガメのお散歩、海辺での魚釣りといった多岐にわたる水族館部の活動に興味を誘われるのはもちろんですが、決して単なる「変わった部活動の紹介漫画」などではなく、その活動を通した小夏と小雪の関係性や二人の成長、心の変化などが丁寧に描かれていて、読者としても漫画を読みながらその活動を見守りたくなるようなつくりになっています。

 

『熱帯魚は雪に焦がれる』ここが好き!③

個人的に圧倒的推しの楓ちゃん

この作品には小夏と小雪にほかにも、小夏と同じクラスで家庭科部に所属している広瀬楓という明るく元気な女の子が登場するのですが、その子がとにかく可愛くて...。なんというか忘れっぽくて天然なところもあるんですが、小夏の些細な浮き沈みにちゃんと気づいて、優しく声をかけてくれたりするんです。じめじめとした暗さのない明るい性格は本当に素敵だなぁと思います。話がだんだんと進んでいくうちに小夏にちょっかいを出すようにもなったりして、とにかく一挙手一投足が可愛らしくて胸に刺さります。読み返すときは楓ちゃん目当てで読み返すことが結構多いかもしれません。個人的におすすめの楓ちゃんシーンは、背後からの「スキありっ!!!」です(よかったら実際に読んで探してみてくださいね)。

 

◇まとめ

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

『熱帯魚は雪に焦がれる』8月27日には第3巻が発売されます。ぜひ書店に買いに行きましょう!(Twitterにて萩埜まこと先生が第3巻の特典数は過去最多だと仰っていました!発表が楽しみですね...うずうず)

まだ読んだことのない方はこちら↓から第1話、第2話、最新話が読めるようになっているので読んでみてくださいね。

comic-walker.com

 

第1回 田村茜先生『モブ子の恋』(徳間書店)

◇目次

・作品概要

・『モブ子の恋』ここが好き!①

・『モブ子の恋』ここが好き!②

・『モブ子の恋』ここが好き!③

・まとめ

 

◇作品概要

第1回に取り上げる作品は田村茜先生『モブ子の恋』(徳間書店)です。月刊コミックゼノンにて連載中の恋愛漫画であり、単行本は2018年7月4日現在第2巻まで発売されています。

<あらすじ>

「地味で大人しく目立つのが苦手」「物語で例えるならみんなの中心にいる主人公よりもすみっこの脇役でいる方が落ち着いてしまう」(第1巻9ページ)、そんな控えめで消極的な大学生の女の子 田中信子(たなかのぶこ)の恋のお話。

彼女は同じアルバイト先で働く男の子、入江君に芽生えた恋心に最初は戸惑いつつも、勇気を振り絞りながらその想いに向き合い、彼との距離を縮めていく。

大勢にとっての"脇役"から、一人にとっての"特別"になるために、そっと歩き出していく彼女の姿は、きっと「誰かを好きになること」の素晴らしさを教えてくれる。

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◇『モブ子の恋』ここが好き!①

ドラマチックな展開に頼らないこそ、「ドキドキ」が浮き彫りになる

『モブ子の恋』で描かれる恋は、決してドラマに溢れた「特別」なものではありません。スーパーでアルバイトをしている大学生の田中さんは、「恋愛漫画のヒロイン」という看板を背負うにはあまりに控えめな性格ですし、そのお相手の入江君も物静かで落ち着いている普通の(と言っては乱暴かもしませんが)男の子です。恋愛漫画にありがちな三角関係も発生せず、二人の関係性はあくまで彼らの「日常の中で」淡々と描かれていきます。

一見恋愛漫画としては退屈に思える一方、ドラマチックな展開や設定に頼らず二人の「意思・迷い・不安・期待」を軸に物語を進めていくことで、人を好きになる気持ちがしっかりと誠実に描かれていきます。そんなごまかしのない作品だからこそ、二人の恋にドキドキしてしまいますし、読んでいて静かに胸が高鳴るような感覚になるのです。

 

◇『モブ子の恋』ここが好き!②

「モブ子」は誰もの心の中にいる

本来、「漫画の主人公」というのは自分のことをあまり客観視しないことが多いような気がします。自分にできるかどうかなんて考えず困難に挑んでいく、周りの評価に左右されずに自分の道を突き進んでいく、そんな気質が「主人公」の持ち味の一つであり、だからこそ読者も惹かれていくのだと思います。

しかし、本作の主人公である田中さん、通称"モブ子"は人見知りでちょっと臆病、自分の言動に対して相手がどう思うかを考えてしまう、漫画的な主人公性とは程遠い性格です。ただ、それは同時に「モブ子は読者と地続きの場所にいる」ということでもあると思います。誰もが憧れるような魅力やカリスマ性を持っているからこその主人公であるとされる一方、この漫画ではあえて読み手と距離感の近いキャラクターを主人公に置くことで、読者が他人事とは思えずにのめり込んでしまうような仕組みになっているのではないでしょうか。

 

◇『モブ子の恋』ここが好き!③

大勢にとっての「主役・脇役」ではなく、誰か一人にとっての「特別」でありたいと思う気持ち

自らを物語の中の脇役のように捉えながら生きてきた田中さん。ただ、そのような彼女も入江君への思いを募らせていく中で、「この人にとっての"特別"になりたい」という自分の気持ちに気づき、勇気を振り絞りながら入江君との距離を縮めていきます。これこそ、恋の素晴らしさの爆発、誰かを好きになることの尊さだと私は思います。今まで自分を縛りつけていた価値観から抜け出し、新しい自分に生まれ変わっていく、そんな恋の魔法を田中さんの姿から感じることができます。

 

◇まとめ

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

『モブ子の恋』、何度も読み返してしまうような本当におすすめの漫画です。

今月には第3巻も発売されるよう。ぜひ書店に買いに行きましょう!